自粛要請に伴う自宅勤務、職場休業による収入減、帰国者隔離で一家離散、休校中の育児で職場復帰を断念…行政書士事務所を運営している私は、目まぐるしい環境変化によって、家庭が壊れていくさまを目の当りにしてきました。特に顕著なのは、医療従事者です。
そこで今回取り上げる職業は、看護師、医師、そして(救急車に乗る)消防士。それぞれ完全同居中、単身赴任中、家出別居中の夫婦です。
3組の夫婦は、8カ月の間に一体何が起こったのでしょうか?相談実例をもとに見ていきましょう。
ケース1.「お前、感染しているんじゃないか?」

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「コロナで大変なときなのに…夫には幻滅しました。あれがあの人の本性なんです!」
ため息まじりに語るのは1人目の相談者・Kさん(36歳)。看護師のKさんは万が一のことを考えて、事務所での面談ではなく、LINE電話での相談で対応しました。
「結婚当初から夫は家事に非協力的でした。平日はともかく週末は家にいるんだからやってほしいですよ。最悪なのは、私の夜勤明け。くたくたで帰ってきたのに、洗濯物が山積みになっているのを見るとイライラします」
Kさんは都市部の総合病院で働く看護師で、平日休み。一方の夫(41歳。結婚3年目)は法律事務所の事務職(パラリーガル)で土日休み。休みが合わずにすれ違うのは当然です。
そして共働きなのに、夫はKさんに家事を丸投げ。次第に夫婦関係は冷えていったのですが、そんな矢先に起こったのが新型コロナウイルスの問題でした。
Kさんの勤務先はコロナ感染者の受け入れ先。院内感染のリスクを顧みず、まさに命がけで働いたのですが、それでも感染者は増加の一途を辿り、医療従事者の人手不足が深刻化。Kさんも休日を返上で奔走せざるを得ず、体力的に厳しい状況でした。
「結婚する前は優しかったんです。コロナで大変なんだから、少しは心配してくれるかと…」Kさんは淡い期待を抱いていたのですが、終日自宅待機の夫は体力や時間、やる気を持て余しているのに相変わらず。
たとえば、疲労困憊で帰ったKさんはテレビゲームに興じる夫を横目に2人分の食事を作り、洗濯や掃除を終わらせなければならないこともあったそうです。
そこにさらに追い打ちをかけたのは、夫の無神経なひとことでした。発せられたのはKさんへの感謝ではなく、金銭の心配だったのです。
「コロナで残業できないから、今月は2万円も減りそうなんだ。入っていた裁判所の調停や訴訟は延期になるし、事務所が営業できなくなるのも時間の問題。休業手当だけじゃ元の6割だよ。だからコロナが終わるまでの間、家賃はそっちで払ってよ」
Kさん夫婦は月12万円の賃貸に住んでおり、いままでKさんの手取りは毎月26万円、夫は毎月22万円。家賃は折半、それ以外の生活費はKさんが負担、食費はその都度決める。それが夫婦のルールでした。
夫は週末しか乗らない車のローン(毎月5万円)を返済中。そんなに苦しいなら車を手放せすことを考えるべきですが、「これだけ働いているなら給料も結構、増えるんだろ?」と妻任せ。残業につぐ残業で給料が増えるのは、結果に過ぎません。金ほしさではなく、人助けのために頑張っているのにヒドイいいようです。
当然、Kさんの残業が増え給料が上がるほど、院内で感染するリスクは高まります。「私の命より金のほうが大事だなんて…」Kさんは夫の守銭奴ぶりに怒りを覚えつつも「4月から6万も渡さなくていいから」と伝えたのです。
なぜでしょうか?Kさんは、「ありがとうございます」と深々とお礼をする患者の顔を思い出したからです。「大した悩みじゃないのに、落ち込んでいる場合じゃない!」と気持ちを切り替えたそう。私も「コロナが収束し、旦那さんの収入が元に戻るまでの辛抱ですから」と勇気づけました。
しかし3月中旬、Kさんは夫の車に積まれたスキー道具一式を発見。「まだ営業しているスキー場を見つけたから」とあっけらかんとする夫。
我慢に我慢を重ねてきたKさんもさすがに堪忍袋の緒が切れ、「あんたの行動はおかしくない?みんなが自粛しているのに!感染しても症状が出ない人だっているんだよ…あんたがウイルスを持ち込んで感染させたら責任をとれるの?」とたしなめたのです。
しかし、夫は悪びれずに「自粛、自粛って何なんだよ?移るかどうかなんて運だろ!?俺は移らない自信があるから(スキーへ)行くんじゃないか。お前は病院へ行くけど、こっちは自宅待機で息が詰まるんだよ。息抜きして何が悪い!」と反論。
挙句の果てには右手を左右に揺らし、「煙たい」のポーズをとり、「お前、感染しているんじゃないか?こっちに来るなよ!」と言い放ったため、Kさんは思わず言葉を失ったそう。この一件からさすがの夫もスキー旅行を取りやめたようですが、すでに手遅れです。
「もう終わりだと思いました。コロナが落ち着いたら離婚しようと思っています」
Kさんは涙声でいいますが、私は「旦那さんは(Kさんのことを)都合のいい存在としか思っていなかったのでは」と、その背中を押しました。
生活費を多めに払い、家事を全部やり、余計なことをいわない都合のいい存在になっていたと、Kさんは薄々勘づいていたでしょう。
コロナ危機で確信に変わったのですが、それだけではありません。いつどこでウイルスに感染し、重症化し、命を落としてもおかしくない状況下。私が「限られた人生をどのようにしたいですか?」と投げかけるとKさんは「自分らしく生きたいです!」といい、夫がいない人生…離婚を選択したのです。