朝日と嘘

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気づけば朝になっていた。布団からパッと顔を出すと、ちょうど玄関が開く音がした。
「賢一さん!」
「ただいま…遅くなってごめん。すっかり朝だよ」
眠そうな顔をして帰ってきた賢一に、リサは急いで駆け寄る。
「久しぶりにあった先輩たちや上司と話してたらこんな時間になっちゃってね。仕事の話って、何時間でもできるんだよね」
「そうなんだ…」
「ごめん、寂しかったよね」
賢一がリサをギュッと抱きしめる。
「ううん。大丈夫だよ」
これからは、忙しい夫を支えるのが妻の役目だからと、リサは言い聞かせる。朝帰りやキャバクラ通いごときを責めてどうする。妻は、寛容な心を持たなければいけないんだから。
きっといまの私の友人たちも、みんなそれがいいと言ってくれるはず。
そのとき、千晶からメッセージが届いた。
『きのうはお疲れさま!あとで写真送るね!すごくきれいだった、改めて結婚おめでとう』
「ありがとう!千晶が来てくれて本当によかったよ。ところで千晶は何時まで飲んでたの?」
『私は二次会で帰ったよ!きょう朝から用事があるから、そんなに遅くまでいれなくて…』
ああ、やっぱり、千晶はあんな下品な女の子たちとはちがう。リサは「千晶となら結婚後も長く友達でいられそう」と感じた。
賢一と付き合う前に仲が良かったインフルエンサーや、動画配信者たちはもう友人ではない。いまは厳選されたハイスペックな女子たちだけがリサの周りにいて、華やかにこれからの暮らしを彩ってくれる。
そしてこれから知り合う友人たちは、きっともっと自分にふさわしいステータスの持ち主だ。友達はライフスタイルに合わせて常にアップデートしていかなくちゃ、それが自分の価値を決めるのだから。
リサは改めてそう言い聞かせ、賢一に水を出しながらニコニコと笑う。それにあしたは新婚旅行だからと、さらなる幸せな予定のスタートに心躍らせた。
そのとき賢一のスマホに「先ほどはありがとうございました。あしたからの旅行楽しみにしていますね」とメッセージが届いた。
しかしリサは、その内容には気づいていないのだ。
NEXT:2022年4月15日(金)更新予定
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- ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。