息子の和也が4歳のときの購入した、中古のリノベーションマンション。ライダーアニメにハマる子どもを見つめる日曜日の朝は、楽しい平和な時間のはずだった。
突如鳴り響くインターホンの音。したの階の住人・小島から「足音がうるさい」というクレームがきてしまう。
主人公・真紀たち一家がいくら対策をしても、少し足音を立ててしまっただけで叩かれるようになった天井。さらには、マンション前で小島に付きまとわれて…。
実家に避難しようとしていた朝、駅のホームで小島に遭遇しかける真紀と和也。渡瀬家の我慢は限界に達していた。
そして剛志は家族を守るため、ついに弁護士と行動を起こすのだった。
第1話:マンションの入り口で待ち伏せる「下の階」の住人。思わず通報した恐ろしい出来事
第2話:中古分譲マンションでの恐怖体験。母子が青ざめた、執念深い「下の階」の住人の行動
第3話
- 登場人物
- 渡瀬真紀:この物語の主人公
- 渡瀬剛志:真紀の夫
- 渡瀬和也:真紀と剛志の息子。5歳
- 花園明:渡瀬家の隣の住民。和也を自分の孫のようにかわいがってくれる
- 花園洋子:明の妻
- 小島:渡瀬家のしたの住民
真実

image by:Shutterstock
真紀たちが無事に実家に帰って1週間。剛志は管理会社に弁護士とともに足を運んでいた。
『駅のホームに、小島がいた』
真紀から連絡を受けたとき、剛志は弁護士事務所にいた。近隣トラブルに強いという弁護士は真紀の連絡を受け、すぐに「近隣トラブルの範疇(はんちゅう)を超えている」と話してくれた。
「朝から夜まで、小島さんは天井をずっとコツコツと、何かでたたいています。これが録音の音声です。この1週間、妻と息子が実家に帰ってからも、その音は続いていました」
剛志はボイスレコーダーの録音音声を管理会社に聞かせる。話し合いの最中、その音声はずっと続いており、30分もしてから限界を迎えた管理会社の職員が黙って停止ボタンを押していた。
「この音声は隣の花園さんの家にも聞こえているようです。先日お会いしたときは、眠れないと悩んでいました」
「…そうですか」
管理会社の職員は、神妙な面持ちで剛志の話に耳を傾けた。
「そして、先週妻と息子は付きまといに遭いました」
「私たちが駆けつけたときの話ですか?」
「いいえ、そのあとです。妻と息子が実家に帰ろうとしたとき、小島さんは駅まで追いかけてきました」
「まさか…」
「こちらが証拠です」
剛志はスマホに保存された、ひとつの動画を再生する。
それは真紀が「何かあったとき、私たちの証言に信ぴょう性が持たせられるように」と、古いスマホで撮影していた映像だった。
シャツの胸ポケットに入れられたスマホのカメラは、人の動きに合わせてだいぶブレていたが、最後にしっかりと、駅のホームから真紀と和也を見つめる小島の姿がおさめられていた。
「これは…」
絶句する管理会社の人は、ゆっくりと口を開き、小島について語り始めた。
「小島さんは…渡瀬さんたちが入居される前の住人の方にも同じようなことをしていました。そのときは厳重注意で聞いてくださったんですが、1年後に住人の方は引っ越したんです。その後、理事会から、注意後も小島さんは嫌がらせ行為を続けていたと聞きました。そのとき私たちはそんなわけがないだろうと、前の住人の人が…それ相応の騒音を出していたせいじゃないのかと勝手に思っていたんです…でも実態は違ったんですね」
管理会社は小島の問題を知っていたのか。
剛志はカッと頭に血が上るのを感じ、大きく息を吸った。
「知ってらしたんですね」
一言だけ話して、息を吐く。
「申し訳ございません」
管理会社に謝罪されても、と思っていたが、このとき剛志は「謝罪して当然だ」と思ってしまっていた。
そんなことなら、買う前に知りたかったと強く思ったのだった。
「朝から夜までの騒音、マンション前での付きまとい、さらには駅までのストーカー行為。我々は小島さんに対して、損害賠償請求の民事訴訟を考えています。これ以上被害が広がるなら、刑事告訴も」
弁護士が落ち着いた声で淡々と話すのを聞き、剛志は少し心臓がギュッとなった。
第三者が”民事訴訟を考えている”と言っているのを聞き、改めて、小島への怒りが増す。